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届かなくても

・・・お手紙が書けないので、少し、話してみようと思います。

中川さん、根本さん、角南さん、・・・お元気ですか?

近くにいたら、もっといろんなお話がしたかったな、と。もちろん、きちんと対面して、ですね。仕事上のこと、ということであればどのように思われていたか分かりませんし、多くの人とやりとりしているのですからご迷惑もかけてしまっていたかもしれません。

本好き、ということはあっても読書家ではないし、作文はうまくない、それに特殊な技能を持っているわけでもない自分が本を出すことなど思いもよらないことでした。・・・それほど劇的な人生を歩んだとも思えない平凡な・・・面白おかしく文章を書くこともないから、総じて暗めの情景になってしまう。

エッセイは軽やかな、明るめの話をつづらなければならない、だから日常で苦しいことがあるならそれを小説に転化して・・・という意見を聞いたことがあります。それも正論だとは思う。でも、言葉という形にすることが困難で、つづっていくこと自体が苦痛をともなう場合もあるのです。作家という立場でなければなおさら・・・それこそ傷が深くなり、血を流すような想いで。

人はいずれこの世からいなくなるものだから何も残さなければ潔いのかもしれない。専門の立場の人からすれば愚かだと一笑に付されることだろう・・・それでも私はかまわなかった。どうしてもいま、このときに。そう思ったとき、機会はおとずれたのでした。

家庭がある、結婚している、子供がいる、活躍できる仕事がある。そうしたことで何かをのこしていける可能性はある。けれど自分にはそのとき何もなかった、これからどうなるのかさえ分からずに恐怖だけが支配する日々のなかにいた。・・・馬鹿だというならそれでいい、生きている証をのこしたいと。

たいそうおかしな人間だと思われたかもしれません。ですが、やりとりできる時間が、私には貴重なものだったのです。それまで過ごしてきた時間とは異なる、密な空間・・・

心身の調節のため、以前にもまして「書く」という作業は不可欠なものとなってしまった。これがなければ呼吸もままならなくなるのです。・・・といって、近くにいすぎて言葉にできない相手もいる、そんななかでつづった手紙やメール、それに対するお返事にどれほど支えられたか。

いまどき手書きの便りなど古くさい、書物ですら恰好のいいものではなくなっている。それでもおそらくしばらくは、私は此処に、手紙や書籍、活字のとなりにいたい。

有意義な場処を与えてくださったことに感謝いたします。

楪 蒼朋

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